営業の属人化が解消できない会社の共通点。「社長の指示に誰も従わない」現場
「10箇所の営業所があって、それぞれに管理者がいます。社長が『来期予算の提出をいついつまでにメールでください』と発信しても、誰一人、期日までに返信が来ない。問い合わせも来ない。電話しても折り返しがない。『忙しいから会議欠席する』と平気で言ってくる」
これは、私が実際に支援した、ある物流企業の話です。
社長は頭を抱えていました。
「市川さん、もう限界なんです。指示を出しても、誰も動かない。新しい仕事を増やしたいけど、今の組織体制では無理です。どうしたらいいんでしょう…」
このような会社は、決して珍しくありません。
社長と現場の管理者の間に深い溝がある。
営業のやり方が、完全に属人化している。
ベテランの頭の中にしかノウハウがなく、若手が育たない。
もし、あなたの会社も似たような状態にあるなら、この記事が何かのヒントになるかもしれません。
今日は、私が実際に現場で行った「営業の属人化を解消する方法」について、お話しします。
営業属人化の本質は「ノウハウ不足」ではなく「信頼関係の欠如」だった
冒頭の会社から依頼を受けたとき、私が最初にやったことは何か?
「10箇所の営業所があるなら、10人全員と話します」
そう社長に伝えました。
多くのコンサルタントは、まず会議室で話を聞き、分析し、提案書を作ります。
しかし、私は違います。
営業の属人化を解消するには、「誰が、何を、どうやっているのか」を現場で見なければ、絶対にわからないからです。
そして、私は10箇所の営業所を一つひとつ訪問し、管理者たちと面談しました。
「とりあえず、愚痴でも何でもいいから、全部聞きますよ」
そう伝えると、彼らは堰を切ったように話し始めました。
「社長は現場のことを何もわかっていない」
「上から一方的に指示を出されるだけで、こっちの意見は聞いてもらえない」
「できもしない予算を押し付けられて、もう疲れました」
社長と管理者の間に、相当な溝があったのです。
そして、私は気づきました。
この会社の問題は、「営業スキル」ではない。「信頼関係」が壊れているのだ。
営業の属人化を解消しようと、多くの会社がこう取り組みます。
「営業プロセスを標準化しよう」
「CRMツールを導入しよう」
「マニュアルを作ろう」
しかし、現場がそもそも動く気がないなら、どんな仕組みを作っても機能しません。
属人化の本質は、「ノウハウが共有されていないこと」ではありません。
「情報を開示できる信頼関係がないこと」なのです。
私が10箇所の営業所で実践した属人化解消のプロセス
10人全員と話した結果、私はあることを決断しました。
10人いっぺんには変えられない。まずは、一人を選ぼう。
10人の中から、「この人だったらいけるかな」という人を一人選びました。
その管理者は、社長に対して不満は持っていましたが、会社を良くしたいという気持ちも強く持っていました。
私は、その人に寄り添って、こう伝えました。
「あなたの言い分もわかります。でもね、社長もあなたたちのことを考えているんですよ。ただ、うまく伝わっていないだけなんです」
「一緒に、少しずつ変えていきませんか?」
最初は半信半疑でしたが、私が何度も現場に足を運び、話を聞き、一緒に考えることで、徐々に彼の態度が変わっていきました。
そして、その管理者が変わると、他の管理者にも影響が出始めました。
「あいつが動き始めたなら、俺もやってみるか」
時間はかかりましたが、これをやるしかなかったのです。
属人化解消で最も重要な「一人目の選び方」
では、どうやって「この人だったらいけるかな」という一人を選ぶのか?
私が見ているポイントは、以下の3つです。
①会社を良くしたいという思いがあるか
不満を持っていても、「どうせ何も変わらない」と諦めている人ではなく、「本当は変わりたい」という気持ちが残っている人を選びます。
②影響力があるか
その人が動くことで、他の管理者も「じゃあ俺も」と動き出すような、現場での影響力を持っている人を選びます。
③素直に話を聞いてくれるか
外部の人間である私の話を、「まあ、一回聞いてみるか」と思ってくれる柔軟性がある人を選びます。
この3つの条件を満たす人を、10人の中から見つけ出すのです。
営業の属人化を解消する3つのステップ|現場介入の具体的手法
では、具体的にどうすれば、営業の属人化を解消できるのか?
私が実践している方法を、3つのステップでお伝えします。
ステップ①:過去を徹底的に振り返る
まず、やるべきことは「過去の成功と失敗を言語化する」ことです。
これまでの取引先を振り返り、以下のことを整理します。
- なぜ、あの会社とはうまくいったのか?
- なぜ、あの会社とは契約に至らなかったのか?
- 期待に応えられたこと、応えられなかったことは何か?
- その原因は、自分にあったのか? 相手にあったのか?
私自身、これまで20数社の企業と取引をしてきました。
すべてがうまくいったわけではありません。
期待に応えられなかった会社もあります。
しかし、その「なぜ?」を、きちんと振り返って言語化したことがあるか?と問われれば、長い間、答えは「NO」でした。
なんとなくは感じている。「多分こうやな」っていうのはわかっている。
でも、きちんと出力できていない。
これが、属人化の最大の原因です。
「なんとなくわかってる」では、若手に伝わりません。
「この場合はこうする」「あの場合はああする」という具体的な判断基準を、言葉にして共有する必要があるのです。
ステップ②:「誰のための会社なのか」を明確にする
振り返りを通じて、こんなことが見えてきます。
「自社が本当に力を発揮できる相手は、誰なのか?」
物流業界には、約75,000社もの事業者が存在します。
でも、すべての会社が、あなたの会社のサービスを必要としているわけではありません。
私の場合、振り返りを通じて、こんなことが見えてきました。
「私が支援できるのは、『営業の仕組み化』に課題を感じている中小物流企業だ」
もっと言えば、「社長は前向きだけど、現場がついてこない」という会社。
あるいは、「新しい仕事を増やしたいけど、組織体制が整っていない」という会社。
そういう会社にしか、私は価値を提供できません。
だから、最近は商談の前に必ずこう伝えるようにしています。
「御社に対してご提供できる独自の価値はこういうことですよ」
「ただし、こういう情報を開示していただけないと、おそらく期待に応えられません」
最初にこれを伝えておくことで、合わない会社は最初から契約しないようにしています。
逆に、合う会社とだけ、深く関わることができます。
結果的に、値引き交渉もほとんどなくなりました。
ステップ③:「情報を開示してもらえる関係」を作る
ここが、最も重要なポイントです。
情報を開示してもらえないと、上っ面の活動にしかならず、滑ってしまう。
私が支援した企業の中には、社長は協力的だけど、現場の管理者が情報を隠すケースがありました。
「市川さんは外部の人間だから、そこまで教えられない」
「恥ずかしいから、できていないことは見せたくない」
そういう警戒心があるのです。
この場合、社長がどれだけ望んでも、私は結果を出せません。
だからこそ、私は最初に必ず現場の管理者と話をします。
「とりあえず、愚痴でも何でもいいから全部聞きますよ」
そうやって、少しずつ信頼関係を作っていくのです。
時間はかかります。
でも、この信頼関係がなければ、どんな仕組みを作っても機能しないのです。
なぜ「現場で一緒に動く」ことが営業属人化の解消に不可欠なのか
私が他のコンサルタントと決定的に違うのは、「現場で一緒に動く」ことです。
会議室で提案書を作るだけでは、営業の属人化は解消できません。
なぜなら、優秀な営業マンがやっていることは、「無意識」だからです。
本人も、「当たり前」だと思ってやっていることが、実は極めて高度なスキルだったりします。
それを、現場で一緒に動きながら、一つひとつ言語化していく。
これが、私の仕事です。
現場で一緒に動くと見えてくること
例えば、冒頭の会社では、私は社長の指示が現場に届かない理由を、現場で一緒に動くことで発見しました。
社長の言葉が、現場にとっては「押し付け」に聞こえていたのです。
社長は「新しい仕事を増やしたい」と言います。
しかし、現場の管理者は「今でも人手が足りないのに、これ以上仕事を増やされても困る」と感じていました。
社長と管理者で、前提条件が全く違ったのです。
これは、会議室で話を聞いているだけでは、絶対にわかりません。
現場に行って、管理者の本音を聞いて、初めてわかることです。
そして、私はその「前提条件のズレ」を埋めるために、社長と管理者の間に入って、橋渡しをしました。
「社長は、あなたたちを苦しめたいわけじゃないんですよ。ただ、会社を成長させたいと思っているだけなんです」
「でも、今の体制のままでは無理だということも、社長はわかっています。だから、一緒に体制を整えていきましょう」
そうやって、少しずつ、社長と管理者の距離を縮めていったのです。
これは、ハウツーでできることじゃない。テクニックじゃない。
現場で一緒に動くからこそ、できることなのです。
営業属人化の解消で得られる成果|若手育成と組織力強化
営業の属人化を解消すると、どんな成果が得られるのか?
私が支援した企業では、以下のような変化が起きました。
成果①:若手が自ら動き始める
営業の型ができると、若手は「何をすればいいか」が明確になります。
「とにかく頑張れ」ではなく、「この順番で、このリストに連絡してみて」と伝えられるからです。
結果、若手が自ら考えて動くようになります。
成果②:ベテランが「自分にしかできないこと」に集中できる
属人化を解消することは、決してベテランの価値を下げることではありません。
むしろ、ベテランが一番楽になるのです。
すべてを自分でやろうとするから、疲弊する。
すべてを自分の頭の中だけで管理しようとするから、不安になる。
しかし、「型」を作り、言語化することで、誰かに任せることができるようになります。
そして、ベテランは「自分にしかできないこと」に集中できるようになるのです。
成果③:会社全体の営業力が底上げされる
属人化が解消されると、会社全体の営業力が底上げされます。
一部のエース頼みではなく、誰もが一定レベルの営業ができるようになるからです。
結果、売上が安定し、経営の予測可能性が高まります。
あなたの会社の営業は、明日から変えられる
「自分がいないと回らない」
その状態は、決してあなたの「強み」ではありません。
むしろ、あなた自身を縛りつけている鎖です。
しかし、属人化を解消することは、決して難しいことではありません。
やるべきことは、シンプルです。
- 過去を振り返る
これまでの取引先で、何がうまくいって、何がうまくいかなかったのかを言語化する。 - ターゲットを決める
自社が本当に力を発揮できる相手は誰なのかを明確にする。 - 現場の信頼関係を作る
情報を開示してもらえる関係を、時間をかけて築いていく。
この3つを実践するだけで、若手への指導は格段にやりやすくなります。
そして、あなた自身が「自分にしかできないこと」に集中できるようになります。
営業の属人化は、「仕組み」で解決できる。
しかし、その前に必要なのは、「現場で一緒に動く覚悟」です。
私の23年のキャリアが、そのことを証明しています。